近年、日本国内でも多く取り上げられるようになった「無痛分娩」
鼻からスイカ、と言われるほどの痛みを想像すると、お母さんたちにとっては何ともありがたい代物です。
しかし、甘美な響きに付きまとうほの暗~い噂の数々。
無痛分娩って具体的にどんなことをするの?
赤ちゃんや母体への影響は?
今回はそんな、話題の「無痛分娩」とそのリスクについて解説していきます!
目次
無痛分娩とは
無痛分娩とは、麻酔利用によってお産の痛みを緩和して分娩を行う方法です。
全く痛みがゼロになるわけではなくあくまで「緩和」なので「和痛分娩」と呼ぶ場合もあります。
お産の痛みというのは、子宮収縮による子宮の痛み(陣痛)と、赤ちゃんの頭によって膣や外陰部、肛門の周りなどが押し広げられることによって起こります。
痛みの感じ方はひとそれぞれ。
とはいえ、考えるだけでも鳥肌の立つような激痛だということは容易に想像がつきますね……。
そんなお産の痛みを、麻酔の力によって無くしてしまおうというのが無痛分娩なのです。
無痛分娩の普及率
平成30年4月に発表された厚生労働省の資料「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築について」によるとその普及率は、
フランス:65.4%(2016年)
アメリカ:41.3%(2008年)
となっており、この二国は各国のなかでも非常に高い割合で無痛分娩を利用していることがわかります。
次いでイギリスも20.8%(2012年)の普及率誇っています。
先日、キャサリン妃が産後7時間という驚異のスピードで退院したことが話題になりましたね。
イギリスでは無痛分娩での日帰り出産がメジャーになってきている模様。
無痛分娩での出産という公式な発表はないものの、キャサリン妃も無痛分娩を利用したとの見解が濃厚のようです。
というのも、欧米では「出産の痛みなんてナンセンス」だという考えが主流なのです。
お産の痛みをなくし、母体の負担を減らすことで早期の退院、復帰を望めるという利点を存分に利用しているのですね。
半面、日本での無痛分娩普及率は5.3%(2014-2016)と諸外国に比べはるかに低くなっています。
まだまだ知名度が低く、その存在が認知されていなかったり概要が理解されていなかったりすることが原因の一つです。
また日本には麻酔科医の数が少ないなどの理由から、無痛分娩を行っている施設数そのものが少ないのです。
さらに日本独特の「医療の介入しない自然なお産が良い」「痛みを乗り越えてこそ母になれる」といった日本独特の考え方が根強いことも、無痛分娩がなかなか普及しづらい理由に挙げられますね。
無痛分娩の費用ってどれくらい?
無痛分娩は通常分娩と同じく保険適用がされないため、かかる費用は自己負担となります。
通常の分娩費用に麻酔や陣痛促進剤の料金などが加算されるため、比較すると大体3~15万円程度高いのが相場だそうです。
病院によって金額は異なりますが、大学病院での無痛分娩は通常の分娩とさほど金額に差が出ないことが多いんだとか。
対して個人病院では、設備やサービスが大学病院に比べとても充実しているので金額も上がってきます。
中には産後エステなどの豪華なサービスを取り入れている病院もあり、そういったところだと出産費用の合計が100万円を超えることも!
事前によく調べて、自分の希望する料金設定や設備の病院を選択することが大事ですね♪
無痛分娩の方法
無痛分娩には二つの方法があり、計画無痛分娩を行う場合と、自然な陣痛を待ってから無痛分娩を行う場合があります。
基本的には計画無痛分娩を行うケースが多いと言われています。
ここでは各種の無痛分娩の流れを説明していきたいと思います。
「計画無痛分娩」
計画無痛分娩とは、あらかじめ出産の日程を決めておき、計画的に出産することです。
事前に出産予定日が決まっていることで、パートナーや家族の立ち合いのスケジュールを調整しやすいのが良いですね。
主な流れは以下のようです。
1.前もって予定日を決めておき分娩予約をして、予約日の前日に入院する
2.ノンストレステスト、超音波検査等の診断を行い、バルーン(ミニメトロとも呼ばれる)を子宮口に挿入する
3.点滴で陣痛促進剤を打つ
4.ある程度まで子宮口が開いているのを確認したのち、カテーテルを挿入して麻酔の準備を行う
5.お産の進み具合によって、麻酔を調節する
または
1.前もって予定日を決めておき分娩予約をして、予約日の前日に入院する
2.内診によって必要とみなされた場合、バルーンを子宮口に挿入する
3.カテーテルを挿入し、麻酔の準備を行う
4.点滴で陣痛促進剤を打つ
5.妊婦さんが痛みを感じ希望があれば麻酔を入れ始める
6.お産の進み具合によって、痛みを感じないよう麻酔を調節する
といった2パターンが主流と言われています。
ただし、あらかじめ決めておいた予定日よりも早く自然陣痛が来てしまった場合、あるいは破水してしまった場合は計画通りに無痛分娩を行うことができないケースがあります。
「自然陣痛を待つ」
文字通り、自然陣痛が起こるのを待ってから無痛分娩を行う方法です。
この方法では計画無痛分娩とは違い、自然陣痛による陣痛の痛みを感じることになります。
流れは以下のようになります。
1.陣痛が始まってから入院する
2.子宮口がある程度まで開いている、あるいは痛みの強さを確認してから、カテーテルを挿入して麻酔の準備を行う
3.点滴で陣痛促進剤を打つ
4.お産の進み具合によって、麻酔を調節する
この手段を用いる場合、お産の進みが早くてカテーテルの留置が間に合わない場合があります。
こういったときには、無痛分娩の処置ができないケースがあります。
基本的な無痛分娩では、痛みを感じることはないもののお腹の張りを感じることはできます。
そのため、出産自体は助産師や医師の合図によって自力でいきんで行います。
「麻酔でうまく感覚がつかめないのでは?」
という不安もありますが、お産のプロが近くでサポートしてくださるので大丈夫ですよ!
また、通常の分娩同様、無痛分娩時もお産の進み具合によっては緊急帝王切開になることもあります。
そういった可能性があるということも念頭において、お産に臨むと良いでしょう。
無痛分娩の鎮痛方法
無痛分娩の鎮痛方法は、大きく分けて硬膜外麻酔と静脈麻酔の2種類があります。
ほとんどの無痛分娩の場合、母子への影響が少ない硬膜外麻酔を採用しています。
今回はこの二種類について解説します。
「硬膜外麻酔」
これは下半身の部分麻酔のなかでもかなりメジャーな麻酔と言われています。
背中にカテーテルを挿入し、硬膜外腔というところに麻酔薬を注入する方法です。
先述した無痛分娩の流れの項目で書いているのも、この麻酔を用いたものです。
子宮、膣、外陰部や会陰部の痛みを伝える神経を麻痺させ、お産の痛みを緩和します。
麻酔の量を手足を動かせる程度に調節するのでいきむ力が入らなかったり、また脳に麻酔がいかないので意識がなくなったりすることもありません。
また、麻酔薬が血液に入ることがないので、麻酔が赤ちゃんへ作用することもないのです。
この硬膜外麻酔法には専門的な技術が必要になってくるので、麻酔科医のいる施設を選ぶことが推奨されています。
「静脈点滴」
硬膜外麻酔が行えない一部のケースで、静脈麻酔が行われることがあります。
硬膜外麻酔に比べ事前の処置が簡単ではあるものの、鎮痛効果は低くなります。
血液中に麻酔を注射するため、分娩中に眠気の起こるお母さんもいますが、基本的には出産が終わるまで意識はあるようです。
お母さんの血液中に入った麻酔薬が胎児へも届くため、赤ちゃんが眠そう、あるいは眠ったまま生まれるというリスクがあります。
無痛分娩のリスク
想像を絶するお産の痛みを緩和してくれるという、奇跡のような無痛分娩。
しかし気になるのはそれに伴う母体や、赤ちゃんに対する影響ですね。
無痛分娩によって懸念されているリスクを見ていきたいと思います。
「陣痛促進剤のリスク」
人工的に陣痛を誘発させる陣痛促進剤。
この薬品には吐き気や不整脈など、数々の副作用がみとめられています。
場合によっては、陣痛促進剤の使用によりお母さんにそういった副作用が出る場合があります。
またこの陣痛促進剤で最も注意するべきなのは、「過強陣痛」です。
過度な子宮収縮により子宮破裂が起こったり、胎児機能不全に陥ってしまったりする可能性があります。
「硬膜外麻酔のリスク」
きちんと作用することでお産の痛みを緩和してくれ、そのうえ麻酔がかかった状態でありながらほとんど自力での出産が可能。
さらには意識もはっきりしているので、赤ちゃんの産声を聞くこともできるという願ったりかなったりの優れもの。
しかし、高度な専門技術を求められると言われる硬膜外麻酔には、やはりリスクも存在します。
・硬膜穿孔
麻酔時にカテーテルを挿入する硬膜というのは、非常に薄い膜です。
ごくごくまれな症例ではあるものの、カテーテルを挿入する際に張りやカテーテルがその硬膜を突き破り、穴をあけてしまう場合があります。
この穴から髄液が漏れ出て、「脳脊髄液減少症」という症状が起こります。
脳脊髄液というのは脳や中枢神経の周りを満たしている液体で、脳はこの髄液のおかげで頭蓋骨の中に浮かんでいる状態です。
硬膜に穴が開くことで髄液が漏れ出てしまうことにより、本来とどまっているべき場所にある髄液の量が減ってしまいます。
そのため、頭蓋骨の中に浮いている脳が不安定になってしまうのです。
これによって激しい頭痛や吐き気、めまいなどの自律神経の諸症状が現れます。
症状は穴がふさがるまで続き、またこの穴がふさがるのには1週間から数か月の期間を要すると言われています。
・感染症
麻酔に使用される器具には、念入りな消毒が行われます。
それでも、長時間留置のために皮膚のばい菌がカテーテルを伝って脊椎に入り、感染症を引き起こす可能性は否めません。
・神経障害
硬膜外腔に入れたカテーテルが、体位の変動などにより神経の一部に触れると、分娩の後にしびれが現れるケースがあります。
また針が神経を傷つけてしまうことがあると、その痺れが一時的に残る場合もあります。
大抵は一過性のもので、数か月程度でしびれは消えると言われています。
無痛分娩による母子への影響
麻酔によるリスクや、吸引・鉗子分娩が行われることから、母体への、そして生まれてくる赤ちゃんへの影響も気になるところですね。
無痛分娩によるお母さん、そして赤ちゃんへの影響がどのくらいあるのか、見ていきましょう。
「死亡率」
厚生労働省が発表した資料によると、2010年から2016年の間で報告された日本における妊産婦の死亡件数は271件。
そのうち無痛分娩を行っていたのは、14件でした。
さらに無痛分娩を行っていて亡くなった妊産婦の死因は、麻酔薬によるものの1件を除いてはすべて、無痛分娩を行っていなくても起こりうるものでした。
現段階では、諸外国のデータも含めて無痛分娩と妊産婦の死亡率の明らかな相関はないと言われています。
「障害について」
無痛分娩で出産した子どもに、自閉症やADHDなどの発達障害が多くみられるのでは、という見解がまことしやかに囁かれています。
ですがこの理論で行くと、全体の半数以上が無痛分娩で出産しているフランスでは、大多数の子どもが障害を持って生まれてきているということになってしまいますね。
麻酔を使うから、頭部吸引をするから、という噂をよく耳にすることもあるかと思います。
ですが無痛分娩による死亡率と同じく、明確な相関はないと言われています。
「無痛分娩を行ったことが原因」で子どもに障害が出るとは考えにくいですね。
無痛分娩のメリット
数多くのリスクを解説してきましたが、こういったケースが起こるのはごくごくまれなこと。
無痛分娩には、多くのメリットがありますよ。
・お産の痛みが軽減される
・痛みによる恐怖、お産への不安、ストレスなどが軽くなる
・痛みによる無呼吸状態がなくなるため、赤ちゃんへの酸素量が減らない
・痛みによる体力の消耗が少なく、産後の回復が早い
特に産後の回復については、通常の分娩を行った際と比較して明らかに早いようです。
とくに早期の職場復帰を望むママさんや、上の子のお世話をするママさんなど、忙しい方にはありがたいですね。
会陰切開による痛みや違和感を感じなくていいのも良かった、という声もありましたよ♪
無痛分娩が受けられないケース
無痛分娩は、希望した人のすべてが行えるというわけではありません。
例えば、カテーテルの挿入が困難なほどに背骨が曲がっている場合は無痛分娩は行えません。
また、背中の神経に病気がある場合、血が止まりにくい、麻酔アレルギーがある人、そして硬膜外腔に膿が溜まっているという場合も無痛分娩はできません。
帝王切開での出産経験がある方も、子宮破裂などのリスクが高まるために前回と同じく帝王切開を勧められるケースが多いと言われています。
無痛分娩を希望する場合は、自分の身体と良く向き合い、医師に相談して決めることが大事ですね。
おわりに
取り沙汰される死亡事故などから、そのリスクが懸念される無痛分娩。
ですが、どの手段をとったとしてもお産というのは命がけであることにはほかなりません。
通常分娩、帝王切開といった日本国内では一般的な分娩方法に加え、無痛分娩に関する理解を深めていくのも大切なことです。
そのためには、メリットも、デメリットもきちんと知っておくことが重要です。
視野を広げ、選択肢を増やすことで、自身の出産をより良いものにできると良いですね♪