赤ちゃんポストについて、皆さんはどのくらいご存知でしょうか。
ニュースやTVドラマでも取り上げられたことがあるので、何となくでも耳にしたことがある方は多いと思います。
赤ちゃんポストは、日本で運用され始めてから2017年5月でちょうど10年が経ちました。
今回は、そんな赤ちゃんポストの仕組みや利用状況、赤ちゃんポストにまつわる賛成・反対の意見などをお伝えします。
- 赤ちゃんポストの仕組み
- 赤ちゃんポストの現状
- 赤ちゃんポストのメリット・問題点
妊娠・出産・育児で悩む親とその赤ちゃんを救う取り組みとして始まった赤ちゃんポスト。
その仕組みや現状を改めて理解し、メリット・デメリットについて考えてみましょう。
目次
赤ちゃんポストとは?赤ちゃんポストの仕組みについて
赤ちゃんポストと聞いて、あなたはどんなことを思い浮かべますか?
赤ちゃんを育てることができない人が赤ちゃんを託す施設…
という何となくのイメージは多くの方が持っていると思います。
それでは、赤ちゃんポストとは具体的にどんな施設で、どのような流れで赤ちゃんを預かっているのでしょうか。
詳しい仕組みについて説明します。
赤ちゃんポストってどこにあるどんな施設?
赤ちゃんポストとは、熊本県熊本市の民間病院である慈恵病院にある「こうのとりのゆりかご」のことを言います。
親が自分で育てることができない赤ちゃんを匿名で預けることのできる場所で、2007年5月に運用が開始されました。
モデルとなっているのは、ドイツにある「ベビークラッペ」という匿名で赤ちゃんを預けることができるシステムです。
熊本県で過去に起きた若い女性が産んだ赤ちゃんを殺してしまう痛ましい事件をきっかけに、慈恵病院の理事長がドイツに視察に行き、日本で「こうのとりのゆりかご」を設立しました。
参考 SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談 / ゆりかごの設立にあたって
赤ちゃんポストの仕組みとは?
赤ちゃんポストである「こうのとりのゆりかご」へは、慈恵病院の一般外来の入り口とは別の専用入口から入ります。
ポストには預ける親宛の手紙があり、その手紙を取ることでポストの鍵が開く仕組みになっています。
中にある保育器に赤ちゃんを入れて扉を閉めると、扉は外から開かなくなります。
もしもこの時点で、赤ちゃんを預けることを考え直したり、相談をしたくなった場合は、扉の横のインターホンでスタッフを呼ぶことができます。
赤ちゃんが預けられて扉が閉まると同時に病院内のブザーが鳴り、スタッフが赤ちゃんを保護して健康状態を確認するために医師の診察を受けます。
その後、病院側は熊本市児童相談所と警察署へ連絡を入れ、調査が終わり次第、赤ちゃんは乳児院へと託されるのです。
参考 SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談 / どんなシステムになってるの?
赤ちゃんポストの現状 ~ 利用状況や赤ちゃんのその後はどうなっているの?
実際にどんな赤ちゃんがどのくらい預けられているのでしょうか。
また、預けられた赤ちゃんはその後どうしているのでしょうか。
2007年に運用開始して以来の「赤ちゃんポストの現状」についてお伝えします。
赤ちゃんポストの利用状況
赤ちゃんポストには、2007年5月の運用開始から2017年までの10年間で、130人の赤ちゃんが預けられました。
130人中の8割にあたる104人は身元が判明しており、残る2割の26人は身元不明。
また130人中、障害のある赤ちゃんは14人でした。
赤ちゃんを預けた父母の居住地は以下の通りです。
<赤ちゃんポストへ預けられた赤ちゃんの父母の居住地>
北海道1人、東北3人、関東22人、中部11人、近畿10人、中国8人、四国1人、九州42人、国外1人、不明31人
引用 産経WEST
熊本県内や九州のみならず全国から預けにくる人が多いことがわかります。
さらに気になるのは親が赤ちゃんポストに赤ちゃんを預けた理由です。
最も多かったのは生活困窮でした。
<赤ちゃんポストに赤ちゃんを預けた理由(複数回答で多い順)>
生活困窮 34件、未婚 27件、世間体・戸籍に入れたくない 25件
引用 日本経済新聞
経済的に厳しく子どもを養うことが難しい場合に、赤ちゃんポストを利用する人が多いようです。
預けられた赤ちゃんのその後について
赤ちゃんポストに預けられた130人の赤ちゃんのその後の状況は、2017年9月時点では以下のようになっています。
特別養子縁組 47人、乳児院や児童養護施設 28人、里親 26人、元の家庭に戻る 23人、その他 6人
引用 毎日新聞
特別養子縁組に引き渡されるケースが最も多く、元の家庭に戻る人は28人であることがわかりました。
特別養子縁組、乳児院や児童養護施設、里親とはそれぞれどのような制度・施設なのかを以下に簡単に紹介します。
・特別養子縁組とは
赤ちゃんと実の親との法律上の親子関係を解消し、育ての親を戸籍上の親権者として養子縁組することを特別養子縁組と言います。
里親から後に特別養子縁組に進んだケースも増えています。
・乳児院や児童養護施設とは
親の病気や育児放棄などさまざまな理由で子どもを家庭で育てることができない場合、子どもを預かり養育する施設が、乳児院や児童養護施設です。
新生児から2歳までの乳幼児を預かる施設が乳児院、3歳から18歳までの児童が入所する施設が児童養護施設となります。
・里親とは
さまざまな事情で家庭で生活をすることができない子どもに対して自分の家庭を提供し、実の親の代わりに子どもを養育することを里親と言います。
「多くの赤ちゃんの命を救った」赤ちゃんポストのメリットとは?
赤ちゃんポストの設置には、運用開始当初から賛否の意見が分かれています。
まずは、赤ちゃんポストがどのような効果を狙って設置されたのか、赤ちゃんポストのメリットを考えてみます。
赤ちゃんの命を救うことができる
赤ちゃんポストが設置された目的でもある「赤ちゃんの命を救うこと」が、やはり一番のメリットとなるでしょう。
悲しいことですが、赤ちゃんをどうしても育てることができない親が、赤ちゃんの命を絶ってしまう事件は起き続けています。
親が誰にも頼ることができずに赤ちゃんの命を亡くしてしまう前の最後の砦として、赤ちゃんポストがあることで救われた命があったのであれば、大きな成果ではないでしょうか。
赤ちゃんの親を救うことができる
産んだ赤ちゃんを育てることは親の義務ですが、どうしても赤ちゃんを育てることができず苦しむ親を救うことも、赤ちゃんポストの一つのメリットではないでしょうか。
赤ちゃんポスト設置のきっかけの一つとして過去に熊本で起きた事件では、トイレで赤ちゃんを一人で産み落とし窒息させた女性が実刑判決を受けました。
このように、誰にも相談できずに赤ちゃんを産み苦しむ親の人生を、赤ちゃんポストが救うという考え方もできるでしょう。
赤ちゃんポストの「一歩手前」の支援が進んでいる
赤ちゃんポストを運営する慈恵病院では、電話やメールによる妊娠・出産・育児の相談も受け付けています。
相談件数は年々増加しており、2016年度は6,565件の相談があったそうです。
慈恵病院への相談をきっかけにして、特別養子縁組で新しい家庭を得た赤ちゃんも多くいます。
また熊本県のみならず、2016年度までに全都道府県の保健所に、望まない妊娠などに対応する女性の相談窓口が開設されています。
こうした、赤ちゃんポストを利用する「一歩手前」の支援が慈恵病院をはじめとして全国で進んでいることも、赤ちゃんポストの及ぼすメリットの一つではないでしょうか。
引用 毎日新聞『赤ちゃんポスト運用10年で130人 「孤立出産」5割』
匿名性であるが故の課題もある?赤ちゃんポストが抱える問題点とは
赤ちゃんポストの運用をめぐっては、多くの課題や反対意見も出されています。
赤ちゃんポストが抱える問題点にはどのようなものがあるのでしょうか。
子どもの出自(しゅつじ)を知る権利を奪ってしまう
赤ちゃんポストは匿名で赤ちゃんを預けることができる点に大きな特徴があります。
匿名であるため、預けられた赤ちゃんが自分はどこで生まれて誰が親なのかという自分の出自(しゅつじ)を知ることができない場合があります。
このことが、子どもの出自(しゅつじ)を知る権利を奪っているのではないかと常に問題点として指摘されています。
慈恵病院としては、望まない妊娠をどうしても人に知られたくない女性にとっては、この匿名性が必要だという考えを示しています。
親の安易な育児放棄を招いている可能性がある
赤ちゃんポストが、育児を放棄できる受け皿として、育児放棄を助長しているのではないかという意見があります。
これはデータなどの根拠があるわけではなく、あくまでも可能性の一つとして、運営開始当初から問題視されてきたことです。
孤立出産の増加を招いている可能性がある
こちらもデータ的根拠がある話ではありませんが、赤ちゃんポストの存在が、孤立出産を増加させているのではないかという問題が指摘されています。
2007年の運用開始から2017年までの10年間で、赤ちゃんポストに預けられた130人の赤ちゃんのうち62人(47%)の母親が、自宅などで一人で赤ちゃんを出産した「孤立出産」でした。
孤立出産が多いことから、赤ちゃんポストへの預け入れを前提として、自宅で危険な出産をしている母親が増えているのではないかという意見も出されています。
参考
産経WEST『ゆりかご「実名化」に反論 慈恵病院の蓮田理事長』
毎日新聞『赤ちゃんポスト運用10年で130人 「孤立出産」5割』
賛否が分かれる赤ちゃんポストについて、あなたはどう考えますか
赤ちゃんポストは、「赤ちゃんの命を助けたい」という強い思いで生まれ、これまで10年間運用されてきました。
実際に多くの赤ちゃんの命を救うことができましたが、同時に、匿名であるため子どもが自分の親を知ることができないなど、多くの問題点も指摘されています。
妊娠や出産、育児について、誰にも相談できずに苦しんでいる親はたくさんいます。
赤ちゃんポストをはじめとして、苦しむ親や赤ちゃんを守り支えるための仕組み作りが、今後も進んでいくことを期待します。