羊水塞栓症(ようすいそくせんしょう)は、妊婦が死亡する頻度が最も高い病気です。
問題のなかったお母さんが、出産直後に容態が急変し、心肺停止状態となり、死亡してしまう。
あっという間のことで、予期していないぶん、家族にとっても、とても怖い病気なのです。
きわめて稀な疾患なので、病名や症状などを知らずに、出産をした人も多いのではないでしょうか。
以前、テレビドラマ「コウノドリ」の最終回でも話題を集め、認知度が少し高まりました。
それでも、妊娠中は赤ちゃんが生まれる最後まで、不安や疑問、心配などが付きものです。
「そもそも羊水塞栓症ってどんな病気?」
「初期症状や治療、予防方法などはあるの?」
「1人目で羊水塞栓症になったので、2人目がとても心配…。」
これだけでなく、他にもたくさんの疑問や不安がありますよね。
今回は、この羊水塞栓症について、下記の内容で詳しくご説明していきます。
・羊水塞栓症とは
・初期症状
・治療方法や予防方法について
・羊水塞栓症の症例
・羊水塞栓症になった人のブログ
これから出産を迎える人にとっては、少し出産が怖くなる内容かもしれませんのでご注意ください。
妊娠中の身体の変化や、羊水塞栓症について詳しく知っておきたい人、一度経験された人など、分かりやすくまとめているので参考になればと思います。
目次
羊水塞栓症とは?症状や原因、確率など
羊水塞栓症(ようすいかんせんしょう)は、たくさんの学会でも詳しく発表されています。
―資料 羊水塞栓症 浜松医科大学産婦人科 金山尚裕|学会活動|日本産婦人科・新生児血液学会HPー
分娩時に起こることが多く、8000~30000件に1回という、極めて珍しい症例です。
30000分の1となると、飛行機が墜落事故する確率と同じくらい、まれなのです。
よくみられる症状
産後、お母さんの血圧が急激に上がったと思ったら、呼吸循環状態が悪化しショック状態を起こします。
その後、DICによる性器からの大量出血がおき、意識が戻らないまま心肺停止となることがあります。
DICとは、播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群と呼ばれ、身体の中で血の塊ができやすくなることや、簡単に出血してしまう症状で、命にかかわる重篤な状況なのです。
急に発症することが多く、お母さんにとっては分娩後なので、どうすることもできません。
原因は、まだ確定されていませんが、次のようなことが言われています。
考えられる原因
分娩時に、ごく症状と胎児成分(胎便、皮膚細胞、髪の毛、産毛など)が、お母さんの体に入っておきます。
我が子とはいえ、自分の体とはまた別のものだと認識して、アナフィラキシーのような症状を起こします。
以前は、胎児成分が肺や血管などに詰まって(塞栓して)発症すると考えられていました。
そのため、羊水塞栓症という名前になっています。
分娩時に、胎児成分がお母さんの体に入るのは、普段からあることなのですが、まれにアナフィラキシーショックを起こし、羊水塞栓症を引き起こします。
事前に予測をすることは不可能な疾患なのです。
致死率
とてもまれな疾患ですが、平成に入って16年間の調査によると、妊婦の死亡例が1位の病気です。
それは、致死率が高いからという理由もあるでしょう。
羊水塞栓症になった場合の致死率はとても高く、60~80%に及ぶとされています。
近年では、少しずつ確率が減ってきている報告もあります。
また、重篤な例では、発症後1時間以内に死亡する場合も少なくないとされています。
羊水塞栓症の場合に起こる初期症状
羊水塞栓症は、分娩後などに突発的に起こるものがほとんどですが、初期症状があることもあります。
妊娠中でもある場合があり、次のような初期症状を伴うことがあります。
胸の痛み、呼吸困難や呼吸が苦しい、原因不明の血圧低下、意識がもうろうとするような症状です。
またDICによる初期症状としては、さらさらとした出血が性器から出ていて、出血の後に、子宮弛緩、弛緩出血、大量出血が起こることが多いようです。
弛緩出血とは、お産後に子宮が収縮せずに大出血を起こし、母体死亡の大きな原因となっています。
子宮が収縮すると血管が縛られて血が止まるのですが、収縮せず開いたままで出血が止まらないという症状です。
また、見落としやすい初期症状としては、強い腹痛です。
妊娠中に、強い腹痛を経験することはたくさんありますが、そのひとつが、もしかしたら羊水塞栓症の、初期症状なのかもしれません。
また、陣痛中に破水をした後、出血や強い腹痛など羊水感染症の初期症状がみられた場合には、病院側で羊水感染症を疑うことがあります。
初期症状は、さまざまですが、妊娠中でも身体の異常を感じたら、早めに相談することが大切ですね。
治療方法や予防方法について
怖い疾患だからこそ、予防方法を探す人も多いでしょう。
しかし、羊水塞栓症においては、事前に予測することは、どの医療機関であってもできないと言われています。
現在の医療では、予測もできず、これといった予防法もない病気なのです。
しかし、病院側での予防方法はガイドラインや学会での発表により確立してきています。
―資料 分娩時大量出血①羊水塞栓症 予防法|浜松医科大学産婦人科 金山尚裕―
治療方法
羊水塞栓症はいまだに原因がはっきりとわかっていないため、予知することができず、根本的な治療が困難とされています。
ショック状態やDIC,低酸素症などの治療を迅速かつ適切に行うこととされています。
ICUに搬送されることもありますが、羊水塞栓症にかかると時間の余裕がない場合が多いようです。
羊水塞栓症の症例
多臓器不全を合併したが救命できた例
35歳の初産妊婦で、常位胎盤早期剝離のため帝王切開によって出産しました。
1時間30分度に、全身蒼白となり、異常出血が起こり、呼吸不全、循環不全がおき、発症。
組成措置を行うにもかかわらずに臓器不全が進行し、大きな病院へ搬送、緊急開腹止血術により、一命を取り留めました。
この女性は、妊娠35週で軽度の腹痛と出血があったそうです。
そのため、入院となり、早めの帝王切開が行われていました。
早めの対応、早めの処置、また集学的治療を行い、その後ICUによって集中治療をした結果、救われた命と言われています。
異常がなかったのに母体死亡となった例
32歳で初産の妊婦で、アトピー性皮膚炎をもっていました。
妊娠6週で性器出血があり、切迫流産と診断されて自宅で安静にしていました。
その後、問題なく改善し、41週に陣痛のような腹痛があり、入院しました。
子宮口も開いたが、胎児の脈が弱くなったため、吸引分娩を開始しました。
しかし、胎児は息を引き取ってから出産。
出産直後にお母さんは多呼吸になり顔面蒼白となり、血圧低下でショック状態になりました。
意識も朦朧とし、間もなく呼吸が低下し、人工呼吸とマッサージを行いながら搬送。
しかし、1時間ほどで死亡が確認されました。
このように羊水塞栓症においては、母体死亡となる症例が多くあります。
羊水塞栓症になった人のブログ
羊水塞栓症にかかって、2人目を産むか悩んでいる人もいるでしょう。
しかし、周りに同じような経験をしている人がいることは、確率からみてもほとんどありません。
そんな方のために、羊水塞栓症になった人のブログがとても参考になるのではないでしょうか。
力をもらえ、元気をもらえて、先に進む力や、同じ悩みを持っている人がいるということを知る機会になるはずです。
みんと、双子育てるってよ!!みんとさんのブログ
「36w6d緊急帝切と羊水塞栓症」より
多胎、帝王切開、羊水過多気味による羊水塞栓症にて、双子を出産し、お母さんも無事だったブログです。
とても明るく前向きな印象の方で、大きな災難も元気に乗り越えています。
父一人、子三人の奮闘記
「羊水塞栓症」より
急に訪れた愛する人との別れ、3人目だからと言って、安心できるものではありません。
読んでいるだけで辛く感じますが、元気に育ってくれているお子様、そして、お父様のこれからの奮闘に目が離せません。
とものブログ
「命がけ羊水塞栓症」より
癒着胎盤と子宮型羊水塞栓症でICUに入った方のブログです。
本当に生きていることが奇跡、そして出産が奇跡であることを実感します。
実際に、羊水塞栓症にかかり、無事に生き抜くことができた方が、たくさんブログに綴られています。
その時には、意識がないので、知らない間に色々なことが起きていたことを後で知ったということですが、やはり経験しているからこそ、羊水塞栓症の怖さが生々しく伝わってきます。
まとめ
羊水塞栓症は、予知できず、致死率も高い病気のひとつです。
出産は、ひとつひとつが奇跡であり、無事に生まれてくることの大切さを感じますね。
予測できない病気なので、予防方法などはありませんが、妊娠中に身体の異常を感じたときには、早めにかかりつけの産婦人科に相談し、その後の治療方法なども相談しておくだけでも安心です。